ラジオ波焼灼治療についての論文
久々の投稿になります。
当院で神奈川県で初の導入となった変形性膝関節症の新しい治療法の「末梢神経ラジオ波焼灼治療(COOLIEF)」についての
論文を紹介します。
日本では2024年から保険適応となっております。
当院でも2025年6月から開始して、60人以上の患者さんがすでに治療を受けております。
膝の痛みに苦しんでいて手術をしたくない、という患者さんにはとても良い治療かと思います。

背景
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変形性膝関節症(膝OA)は慢性的な膝痛の主な原因で、手術(人工膝関節置換術)が最終手段になるが、年齢や合併症で手術が難しい患者も多い。
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ヒアルロン酸(HA)関節内注射はよく行われているが、効果は「中等度・一時的」とされ、推奨が分かれている。
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一方、冷却高周波焼灼術(cooled radiofrequency ablation: CRFA)は膝関節を支配する感覚神経(膝周囲のgenicular nerves)を熱で選択的に遮断し、痛みの伝達を抑える低侵襲治療である。
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本研究の目的は、膝OA痛に対するCRFAと単回HA注射を、無作為比較試験で直接比較すること。
方法
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多施設ランダム化比較試験(RCT)、米国の10施設。
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対象:
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画像でグレード2〜4の膝OAが確認され、
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既存の保存療法で痛みのコントロールが不十分な患者。
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まず、4本のgenicular nervesに局所麻酔で診断ブロックを行い、
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15分以内に痛みが50%以上減少した患者のみを登録。
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登録後、1:1で
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CRFA群:4本のgenicular nervesにCRFA実施
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HA群:ヒアルロン酸(Synvisc-One 6 mL)を単回関節内注射
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260例スクリーニング → 177例ランダム化 → 175例治療
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CRFA 88例、HA 87例
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評価時期:治療後1か月、3か月、6か月
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主要評価項目:
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6か月時点で、NRS(0〜10)の痛みがベースラインから50%以上減少した患者の割合
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副次評価項目:
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WOMAC(痛み・機能・こわばり)
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患者の主観的改善度(Global Perceived Effect: GPE)
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QOL(EQ-5D-5L)
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薬剤使用状況、安全性(有害事象)
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結果
患者背景
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年齢・性別・痛みの程度・OAグレードなど、2群間で有意差はほぼなし。
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BMIはCRFA群でやや高いが(32.2 vs 30.5)、他は概ね均衡。
痛み(NRS)
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ベースラインの痛みは両群とも約6.5点で同程度。
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6か月時点で:
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50%以上の痛み軽減達成率
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CRFA:71%
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HA:38%(p < 0.0001)
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NRSの平均変化量
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CRFA:−4.1 ± 2.2
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HA:−2.5 ± 2.5(p < 0.0001)
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1か月・3か月時点でも、CRFA群の痛み軽減は一貫してHA群より優れていた。
機能・こわばり(WOMAC)
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ベースラインでは2群に有意差なし。
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6か月時点のWOMAC総スコア改善率:
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CRFA:48.2%改善
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HA:22.6%改善(p < 0.0001)
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痛み・機能・こわばりの各サブスコアでも、多くの時点でCRFA群が有意に良好。
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6か月時点の身体診察では、CRFA群で圧痛や異常歩行の頻度が少ないことも示された。
全般的な健康状態・QOL
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GPE(患者自身の改善実感):
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6か月で「改善した」と答えた割合
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CRFA:72%
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HA:40%(p < 0.0001)
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EQ-5D-5L(健康関連QOL):
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ベースラインは両群同程度(約0.67)
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6か月時点の変化量
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CRFA:+0.12
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HA:+0.06(p = 0.0075)
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CRFA群の変化は、最小臨床的に意味のある差を上回っていたとされる。
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薬剤使用
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オピオイド使用者はもともと少数で、オピオイド消費量の変化は明確な差が出なかった。
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非オピオイド鎮痛薬は、CRFA群では6か月で総使用量が減少傾向、HA群ではむしろ増加傾向。
安全性
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6か月間に報告された有害事象は、
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CRFA:94件
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HA:63件
だが、その約8割は手技と無関係と判断。
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手技と関連(ありうる〜明らかに関連)と判断されたのは
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CRFA:18件(19%)
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HA:9件(14%)
で、主に一過性の術後痛やしびれなど。
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両群とも重大な手技関連有害事象は認められず、Charcot関節など重篤な合併症も報告されなかった。
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全体として、安全性プロファイルは両者でほぼ同等と評価された。
考察
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本試験のCRFAの効果(痛み50%以上軽減約70%)は、過去のCRFA研究と同等またはそれ以上の結果と整合的。
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既存のHA試験が「30〜40%の痛み軽減」を有効とみなしてきたのに対し、本試験のCRFAはより大きな痛み軽減(約67%)を達成。
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WOMACの改善率も、他のHA試験の報告(痛み約30%改善)を上回っている。
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OAグレード2 > 3 > 4の順に反応が良かった傾向があり、比較的早期のOAでCRFAを検討する価値がある可能性が示唆される。
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理論上懸念される血流障害やCharcot関節などの長期合併症は、本試験および既存の長期フォロー研究でも確認されていない。
限界
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オープンラベル(患者も医師も治療内容を知っている)デザインのため、プラセボ効果やバイアスの可能性。
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対照は「単回HA注射」であり、複数回注射レジメンとの比較ではない。
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CRFA群の脱落率がHA群よりやや高い(15% vs 7%)など、フォローアップの不均衡。
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試験はCRFA機器メーカーの資金提供を受けており、利益相反の可能性がある。
結論
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慢性の膝OA痛患者において、冷却高周波焼灼術(CRFA)は単回ヒアルロン酸注射と比較して、6か月時点まで一貫してより大きな痛み軽減・機能改善・QOL向上をもたらした。
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有害事象の頻度と重症度は両群で類似しており、安全性は同等と判断された。
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CRFAは、手術候補ではない、または手術を先送りしたい膝OA患者に対する、有望な非オピオイド・非手術的治療オプションと位置づけられる。